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怪談…会社の帰りに見たもの

怪談…会社の帰りに見たもの

ちょうど今から10年くらい前の話。
俺は40代後半に、体のいいリストラから、片道通勤2時間半から3時間かかる神奈川の客先に飛ばされました。
けっこうな誰でも知ってる大企業です。
なんとか踏ん張って、期間満了で自社へ戻ると、今度は同じ顧客ですが、別の事業所へ出向になりました。
この時期は非常に辛かった時期です。

次の客先は、自社へ通うよりも近い場所にありましたが、今度は近いけど、交通手段がない場所でした。
家から最寄りのバス停まで20分歩けば、そこからバスで通う方法もありましたが、そのバスは本数が極端に少なく、早朝や深夜には、ほとんど通ってない状態でした。

ようやく新しい仕事にも慣れ、客先では、いつものように夜遅くまで残業を余儀なくされていました。

その日、作業を終わらせて自分のPCの電源を切ると、なんだか残ってる人がざわついてます。
時間はだいたい22時前くらいだったと思います。
一人のお客が俺の所にきて、人身事故で電車止まってるらしいです…と教えてくれました。

みんな急いで帰り支度をしてて、この人数がいっせいに駅に詰めかけたら、これじゃ駅に行っても絶対タクシーは拾えないでしょうと…
それでまあちょっと考えて、家まで歩いて1時間くらいなので、歩いて帰ろう…と決断しました。

家までは、時々車が通る少し広い通りがあって、その道を歩いていきます。
直線道路で、道は田んぼや畑の中をまっすぐ走っていて、道の両脇には、比較的幅の広い歩道がついています。
道沿いの所々、畑や田んぼがあって、稲作に支障が出るという理由から、街灯が設置されて無く、夜はけっこう暗い、寂しい道と化していました。

そんな暗い道を、前にも後ろにも誰もいない状況で、時折車のライトがポツン現れ、通り過ぎていく感じで、家に向かってとぼとぼと、疲れた身体を引きずって歩きました。

いろいろとくだらない仕事の事や、課長らの理不尽態度を思い出しては、悔しさや腹立たしさを引き連れて、もくもくと歩きました。

近くには、森や沼があり、昔の城跡もあったりします。
昼間でも暗い雰囲気で、そこに幽霊が出るという噂もちらほら。
通りから一本奥の道に入れば、そんな寂しい景色が広がっている場所です。
まあ、直線道路のずっと向こうには、街の灯りが見えてたので、不思議と歩いてても、それほど怖いといった気持ちはありませんでした。

しばらく歩くと、その歩道沿いがススキの穂で覆われた場所にさしかかりました。
季節的にはもう晩秋で、手入れもされてないんだな〜なんて、ぼーっとススキの穂を見てました。

すると、そのススキの群集の向こう側に、細い道があるのがわかりました。
この大通りにつながってる脇道です。
その脇道は短くて、その先に用水路の水門があり、そこで行き止まりになっています。

その行き止まり付近に、車の赤いテールランプが見えました。
なんだろうと思ってその車を見ると、エンジンを切った車の室内に、ぼんやりと2人の人影が見えました。
一人の影は大きく、一人の影は髪が長く、ぱっと見で男女だとわかりました。

「また、こんな夜中に、カップルでいちゃいちゃしやがって…
こっちはさ、遅くまでこき使われてんだぜ…チェ!」

なんて、半分羨ましいなあーなんて思いながら(笑)、後にして急いで帰宅しました。


そして翌日、早く目が覚めたので、昨日歩いてみてそれ程大変でもなかったので、今日は歩いて会社に行ってみよかなと思い、少し早く家を出ました。
昨夜の道を歩いて顧客先に向います。
明るい朝には、夜にはわからなかったいろいろな風景が飛び込んできました。
けっこう自然豊かなところだな〜なんて思いながら会社に急ぎました。

歩くうちにだんだんススキの群集が見えてきました。
それを見てるうちに、そう言えば昨日カップルがいちゃついてたっけな~と思い出しました。

歩きながらその場所にさしかかって、何気なく道をのぞいてみると、昨日の車がまだそこに停車してます。
なんだ、朝までいたのか?
そう思いながら車を見ると…

一瞬何があったかわからない感じで、ギョッとして、よくよくその車を見返しました。
そこにあったのは…

「半分押しつぶされたように大破した、事故車…でした」

俺は茫然とそのまま立ちすくみました…
車の状態から、だいぶ前に事故を起こした様です。
その場所に、他の車が縦列駐車出来るようなスペースなどありません。
周りの景色も用水路の脇で、どう見ても昨日俺が見た場所に間違いありませんでした。

では、昨日俺が見たものはいったい何だったのか?

まだあの世へ行けてない二人が、この事故車に留まっている…とでも言うのだろうか…

大破した車を見ていて、背筋が寒くなってきて、その場を後にしました。

かなり不思議な体験です。